保津峡駅の恐怖
去年の7月のこと
友人でのLINEのやりとりに夢中になっていて、ふと気がついて窓の外を見ると、降りる予定だった嵯峨嵐山駅を電車が出発するところだった。
しまった、降り損ねた!
すでにその電車は終電の一本前の電車だった。
次の駅で降りて反対の電車で戻ろうと慌てて席を立ち、数分後の次の駅で迷わず降りた。
プシューっという音をたてて背中で電車の扉が閉まった時、もう一度
しまった!と思った。
保津峡駅、真っ暗な駅、ひとっこひとりいない、見渡しても家もない、ただの真っ暗な暗闇が広がっていた。
虫が群がる電球がいくつかぶらさがっているほかは何も見えなかった、ほんとうにだれもいなかった。
えっ、観光客でごったがえす嵯峨嵐山駅の一駅先が、これなの?
引っ越してきたばかりで知らなかったとはいえ、関東では考えられない状況だった。
背中がすーっと冷たくなって、あせりと恐怖と不安とさびしさとこんがらかった気持ちでホームを走った。
最後の反対の電車に乗って帰らなくちゃと。
反対のホームへの階段を見つけ、改札で次の電車の時間を確認しようと時刻表を見た時に愕然とした。
逆向きの次の電車は、始発だった・・・
この駅で朝までひとりで過ごす?と思うと泣き叫びたくなった。正直、暗闇にむかって泣きながらやばーいと叫んだ。
今日は健一くんも出張で東京に行っていていない、迎えにきてもらうことはできない。
落ち着きたくて電話をしたら、酔っ払って気持ちよさそうな返事が返ってきた。
そうなのお?たいへんじゃ〜ん。。。と
たいへんなんはわかっとるわ!
よっぱらいと話していても解決しない。電話を切って改札の固い椅子にすわって落ち着くことにした。
気づくと、足元の近くに20センチ以上もある巨大なかまきりみたいな虫がいた。
えっ?なにこれ?ひーっ!と声が出たものの、こわいとか不気味さはまったく感じなかった。
心配して見守ってくれてるんじゃないかとすら思った。
予備のバッテリーを持ってきてよかった、私ついてる、と思い直し、タクシー会社に電話することにした。
つぎつぎにタクシー会社に電話する。
どの会社も「今、その近くには空いている車がないので行くことができません」と秒で断られた。
一社だけ、事情を聞いてくれて、
「お姉さん、それは怖いやろ、ちょっとまっちょってね、クルマさがしてすぐ掛け直すから」と言ってくれた。全身のちからが抜けるくらい安心した。
40分くらい待って、かなり離れたところから、さっきたたき起こされましたという感じの運転手さんが車をとばしてやってきてくれた。
よかった、ありがとうございます。心底思った、一生このタクシー会社を使おうと思った。
このタクシーの運転手さん、実は途中で道を間違えて違う方向に向かっていたのだけど、
無線でそれを指摘され軌道修正し、最後は、メーターの金額からだいぶ引いた額をわたしに言って、
すいません、道間違えちゃって・・・と申し訳なさそうにしていた。
ものすごく良い人だった。
前置きが長くなっちゃったけど、そんな怖い思いをした「保津峡駅」に、今日その時以来初めてやってきた。
JRに乗るたびに、7月の恐怖がよみがえらなかったことはなかった、あの駅。
有名な保津川下りの駅だ。
あの時は真っ暗で何も見えなかったけれど、こんなに美しい自然が広がっていたとは。。。
バーベキューに参加して、最高の時間だった。
木々の葉っぱが目の奥にひりひりとしみるような緑色で、川の水はごーごーと轟音で唸る、足をつけると冷たさでヒーヒー言いながら水をわたった。
食べては寝っ転がって、眠った。信じられないくらい、ゆるんだ。
京都市の景色は、はじっこに行くと、とたんにこぼれるように田舎になる、ほんとうにそう、実感した。
帰りは、保津峡駅から峠を越え、歩いて2時間ほど歩いて家に着いた。
そして確信した。この山道は、ぜったい夜はひとりでは歩けない。なんか出そう。
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